環境汚染に伴うリスクと機会
ブラザーグループは、「ブラザーグループ環境方針」の中で、製品のライフサイクル(製品の開発・設計、部品や材料の調達、生産、包装・物流、お客様による使用、回収・リサイクル)を通じて、活動する国や地域の法規制順守や環境汚染の予防に取り組んでいます。さらに、継続的な環境負荷の低減を約束し、環境汚染のリスクと機会を以下のように捉え、ISO 14001の活動などを通じて予防を図っています。
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化学物質の管理と削減
国内事業所の主な取り組み
ブラザー工業株式会社(以下、ブラザー工業)では、1998年に一般社団法人日本経済団体連合会によるPRTR制度の導入に伴う先行調査に参加し、事業所で使用されている化学物質の移動・排出量を1997年度分から報告しています。
ブラザー工業では、「PCB廃棄物の適正な処理の促進に関する特別措置法」に基づき、2008年から、計画的に廃棄処分委託を行ってきました。これまでに廃棄処分を完了した高濃度PCB廃棄物は、コンデンサーと蛍光灯安定器をあわせて2,468台、低濃度PCB廃棄物は、トランスやコンデンサーなどの廃電気機器41台です。廃PCB油約70kgについても2019年度に処分しました。この際に発生したウエスなどの汚染物は、2020年6月末までに処分を完了しました。また、2019年に古い工場において人の出入りの少ない階段下倉庫などから新たに蛍光灯安定器が発見されたため、LED化が済んでいない全ての倉庫を確認し、全ての蛍光灯安定器の処分も2020年6月末までに完了しました。2020年4月には、環境省による「エレベーターなどの非自家用電気工作物にも使われていた可能性がある」という発表を受け調査を行い、新たなPCB廃棄物がないことを再確認しました。その後2021年7月に休止中の変電設備を廃棄処分する際、高圧変圧器の絶縁油から微量のPCBが検出されました。直ちに全ての変電設備の変圧器を検査し、微量のPCBが検出された4基については、2022年9月末までに処分を完了しました。2023年3月に休止設備から低濃度PCB含有火花消去器コンデンサーが発見されたため、法律に従った保管・管理を行っています。これについては、2023年度に処分を完了する予定です。
フロンについては、「フロン排出抑制法」の施行(2015年4月)に伴い、2015年から一般財団法人日本冷媒・環境保全機構の「冷媒管理システム」を用いて空調設備を管理しています。このシステムにより、約1,600台に及ぶブラザー工業の国内空調機器の稼働状況が一元的に把握できています。
海外拠点の主な取り組み
海外の生産拠点では、ISO 14001に基づいて地域ごとの法規制を調査・把握し、管理体制を構築して適切な管理を実施しています。また、生産に関わる部品・材料・副資材は、お取引先と連携して「ブラザーグループ グリーン調達システム」を運用し、有害化学物質の混入を防止しています。
大気・水質・土壌など汚染防止
ブラザーグループでは、環境事故の未然防止を第一優先とし、対象となる施設・工程を見直し、適時汚染の可能性が低い方式への転換を図っています。また、既存の施設管理は、各拠点が取得しているISO 14001の運用により自主管理値を設定・順守し、汚染防止を図っています。
大気汚染の未然防止
ブラザーグループでは、化石燃料を直接燃焼するタイプのボイラーや暖房機を、電化、またはCO2排出係数の低い都市ガスに変更することで環境への負荷を軽減し、大気汚染防止に努めています。
ブラザー工業では、従業員寮を含め全事業所で大気汚染に関わる特定施設の重油ボイラーを廃止しています。海外の生産拠点でも、従業員寮に太陽光温水器やヒートポンプ設備を導入し、重油ボイラーの使用を大幅に削減しています。また、中国華南地区にある兄弟高科技(深圳)有限公司(以下、BTSL)で使用する電力は、重油による自家発電を廃止し、市が供給する電力に切り替えました。これらの取り組みにより、大気汚染・CO2排出による温暖化・土壌や地下水汚染などのリスクを軽減しています。
VOC(揮発性有機化合物)の排出削減については、ブラザー工業の刈谷工場に設置した塗工施設に1994年から排気ガス処理設備を導入し、VOCの排出抑制と悪臭の発生を防止しています。あわせて、有機溶剤の含有率が低い材料への転換や、使用量削減などの対策も実施しています。BTSLにおいても樹脂の成形工程や実装基板の製造工程から排出されるVOCの処理設備を2015年に設置するとともに、大気汚染防止に努めています。
兄弟機械(西安)有限公司においては、2021年に排気ガス処理設備を更新し、2022年度に高温処理工程からの排ガスに含まれる汚染因子をより効率的に除去するため、VOC処理設備に接続する改良を行うなど、大気汚染防止に継続的に取り組んでいます。
水質汚染の未然防止
水質汚濁防止については、以下の取り組みを実施しています。
ブラザー工業では、2011年度に最新式の膜分離活性汚泥方式を採用した排水処理施設を刈谷工場に設置しました。
海外の生産拠点では、ブラザーインダストリーズ(サイゴン)Ltd.の部品洗浄排水、兄弟機械(西安)有限公司の塗装前処理排水、台弟工業股份有限公司の塗装前処理排水を対象に、排水処理施設を設けました。2012年に工場を増設したブラザーインダストリーズ(ベトナム)Ltd.では、排水処理施設を生物膜方式の施設に更新し処理能力を向上させることで、排水の環境負荷数値を大きく低減しました。
下水道のインフラ整備がない事業所では、生活排水の浄化設備および後処理設備を設置しています。これらの施設もISO 14001の施設管理手順により地域の基準を順守しています。しかしながら2022年度は、海外の一つの生産拠点において、所在国の合否基準が厳しくなったため、ノルマルヘキサン抽出物が新基準値の1.5倍になりました。新基準値をクリアするため、グリーストラップのキャパシティー拡張や清掃頻度を増やすなどの対策を検討しています。
緊急事態への対応については、下水や公共水域への流入・土壌への浸透を想定した緊急事態訓練を定期的に行っています。さらに、排水処理施設へCOD(化学的酸素要求量)を常時監視するシステムの導入、食堂排水へオイルトラップを設置するなどの対策を施し、万が一の油流出の事態に備えています。また、定期的にBOD(生物化学的酸素要求量)や、ノルマルヘキサン抽出物質(水中の油分などを表す指標)などの測定監視を行っています。
土壌汚染対策
ブラザー工業では、過去に工場内で使用していた有機塩素系化合物、有害重金属による土壌・地下水の汚染状況について、1997年から調査を開始しました。汚染を確認した区域では、汚染物質の拡散防止対策ならびに浄化を施すとともに管轄する自治体に報告しています。自社所有地の売却および改変に当たっては、法律の基準に従い土壌調査を実施しています。
2019年度は、星崎工場内一部工場の解体や免震機能付き工場棟建て替え工事、刈谷工場敷地内工作機械のショールーム(テクノロジーセンター)建設工事を行うに当たり、土壌汚染対策法に基づき土壌および地下水調査を実施しました。その結果、星崎工場の一部区画において、指定基準などを超えるフッ素およびその化合物・ヒ素およびその化合物・六価クロム化合物・鉛およびその化合物が、刈谷工場の一部区画において、土壌溶出量基準および地下水基準を超えるフッ素およびその化合物が検出されました。いずれの汚染物質も、直接口に入れなければ人体に影響はありません。
星崎工場で検出されたフッ素およびその化合物や鉛およびその化合物は、調査区域の一部で使用記録がありますが、フッ素およびその化合物は使用量に対して検出量が多く、鉛およびその化合物は使用区域では検出されず、使用区域外で検出されました。また、使用記録のないヒ素およびその化合物や六価クロム化合物も検出されており、原因を特定するのは困難です。2023年6月現在、名古屋市の指導に基づき汚染土壌は掘削・搬出・良質土の埋め戻しなどを実施し、地下水は観測井戸のモニタリングを継続し、適切に対処しています。
刈谷工場で検出されたフッ素およびその化合物は、使用区域外で検出されており、事故や漏えい、廃棄などは確認されていないことから、汚染原因の特定は困難な状況です。行政の指導に基づき観測井戸の地下水モニタリングを行い、適切に対処しています。
2020年度は、港工場内の構内道路の整備および隣接地の倉庫建設工事を行うに当たり、土壌汚染対策法に基づき土壌および地下水調査を実施しました。その結果、港工場内の一部と隣接地の一部において、指定基準などを超えるクロロエチレン・1,2-ジクロロエチレン・テトラクロロエチレン・トリクロロエチレン・シアン化合物・六価クロム化合物・ヒ素およびその化合物・フッ素およびその化合物・鉛およびその化合物が検出されたため、土壌調査結果を名古屋市に提出しました。
トリクロロエチレン・シアン化合物・六価クロム化合物・ヒ素およびその化合物・フッ素およびその化合物・鉛およびその化合物は、当該土地での使用があり、テトラクロロエチレンは、使用が確認されていません。クロロエチレン・1,2-ジクロロエチレンは、使用していた物質の分解生成物です。汚染土壌、地下水とも汚染の拡散防止などの対策を講じ、行政の指導に基づき、土壌改良および観測井戸を設置して2021年度も地下水のモニタリングを行い、適切に対処しました。
2022年度は、子会社の株式会社ニッセイ(以下、ニッセイ)本社工場内工事に伴う土壌汚染調査を行ったところ、フッ素およびその化合物が検出されたため、調査結果を愛知県へ報告するとともに、行政の指導に基づき、適切に対処しました。
騒音・振動・悪臭の発生防止
ブラザー工業では、近隣の住宅・学校・通行人への配慮として、騒音・振動・悪臭の発生に細心の注意を払っています。
騒音・振動対策としては、チラーや排風口などの音源・振動源をできる限り工場の内側へ設置、または移設しました。
防音対策として、海外の生産拠点の一つであるBTSLでは水処理施設の騒音防止装置を設置しました。さらに消音フレキシブルダクトの採用や排気ファンのインバーター機への変更など、継続して騒音防止に取り組んでいます。
悪臭防止対策として、塗装工場などでは排出口にフィルターや、脱臭装置などを設置し、周囲への発散を低減しています。あわせて、塗装工程で悪臭のもととなる有機溶剤の含有率が低い塗料への転換や、使用量削減などの対策を実施しています。
また、騒音・悪臭防止対策として、2011年度刈谷工場に新設した排水処理施設に地下埋設式水槽を採用するなど、音源・悪臭源を地下に埋設して周囲への影響を軽減しています。
なお、特に騒音・悪臭に関しては、施設導入時だけでなく、定期的に測定監視を行っています。
ニッセイでは、近隣の方へのより一層の騒音対策として、2016年度にダイカストマシンを工場内で住宅分譲地から遠ざける方向へ移設、そして大型溶解炉の停止と廃却を行い、原材料の投入による騒音を低減しています。
水質汚濁負荷量
年度 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | |
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水質汚濁負荷量(t) | BOD | 19.6 | 25.0 | 37.8 | 29.3 | 31.2 |
COD | 40.4 | 46.1 | 95.3 | 68.4 | 48.1 | |
ノルマルヘキサン抽出物質含有量 | 0.6 | 0.5 | 0.7 | 0.5 | 1.5 | |
SS | 44.1 | 13.8 | 29.4 | 12.0 | 15.6 |
集計範囲は、製品に直接関わる範囲としています。
対象拠点は、マテリアルバランス [PDF/1.1MB] 6ページをご覧ください。