「人事ポリシー」の策定と新たな人事制度の導入
近年、グローバル化はもとより、社会の価値観やニーズの変化など、従業員や組織を取り巻く環境が大きく変化しています。
このような状況においても、"At your side."の精神を変わらず実現しお客様に選ばれる会社であり続けることに加え、従業員が能力を最大限に発揮しより意欲をもって働くことができる企業風土の醸成を実現するために、ブラザー工業は、「よりヒトに焦点を当てる人事制度」へ2023年度から移行しました。
新しい人事制度では、人財、組織の観点で今後も「強み」となるものを維持しつつ、変えるべきものは変化させ、従業員エンゲージメントがより高い状態を実現することを目指しています。
その実現を確実に進めるために、新たに「人事ポリシー」を策定しました。本ポリシーのもと、「目指す人財と組織の姿」「人財マネジメント方針」を定め、新たな人事制度をはじめ人財育成や各種人事施策の展開を進めています。
全ての従業員の「真の自律と挑戦」に向けた制度改革
ブラザー工業は、「人事ポリシー」に基づき、未来永劫にわたって多様な一人ひとりが常に挑戦することで、組織と人が一体となって持続的成長を実現することが重要と考えています。そこで、ライフサイクルの視点から従業員を4つの世代に分類し、世代別の制度改革にアプローチしています。「若手層」には役割に基づく育成と早期抜擢、「ミドル層」にはより柔軟な配置と報酬、「マネジメント層」には役割に基づく貢献と能力強化、そして「シニア層」には新たな役割での成果、価値の創出を実現できる制度となるように改革を進めています。
この改革のもと、ブラザー工業の全従業員が能力を発揮するため、2023年度から「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つの制度を変更した新たな人事制度を導入しました。
また、上記の役割に基づく人事制度が浸透したうえで、2029年度に満60歳になる従業員から「65歳定年」に移行します。この定年延長は、2026年度から段階的に進めます。
ブラザー工業におけるシニア層の活躍推進については、下記をご覧ください。
多様性の尊重-シニア層の活躍推進(ブラザーシニアスタッフ制度)「職能等級制度」から「役割等級制度」へ
ブラザー工業は、2023年4月、従来の職能資格制度*1から、役割等級制度*2へ移行し、基幹人事制度となる「等級制度」「評価制度」「報酬制度」を変更しました。人財育成の強化に加えて高い成果、貢献を創出する人財の早期抜擢など、実力に応じた役割の付与と人財の最適配置を促進することで、人事ポリシーに掲げた「真の自律と挑戦」を後押しします。そして、「成果と貢献に正しく報いる」ことを実施するために、「等級制度」に基づく「評価制度」とし、より公正な「報酬制度」につなげます。
- 経験年数を重視し、従業員個人の保有能力や発揮能力に基づき従業員を格付けする制度(メンバーシップ型)
- 担う役割(役職)の重さに基づき、等級・処遇を決定する制度(ジョブ型)
評価・報酬制度
2022年度にブラザー工業で実施した「従業員エンゲージメント調査」の結果から、従業員のエンゲージメントを高める要素として、「目標設定」が重要であることを再認識しました。そこで、ブラザー工業では、新しい評価制度の導入に加えて2023年度から、従業員のチャレンジをより促進することができる「目標設定」の仕組みに変更しました。
また、役職、役割ごとの「役割定義表」を新たに作成、公開し、「目標設定と人事評価の考え方」に関する動画配信やe-ラーニングの実施、管理職(上級職)向けの研修実施などにより、全ての従業員が新しい評価制度の理解を深め、共通認識をもって目標設定や評価ができるような活動を継続して行っています。
評価の決定後は、評価結果をフィードバックし、各自の強みや課題などを確認することで翌年度の目標設定につなげています。また、評価の結果は、給与と賞与に反映することで、透明性の高い報酬制度となっています。このようなオープンな制度により、上司と部下がお互いの理解と納得性を高めることで、「真の自律と挑戦」を後押ししています。
教育体系・研修内容
ブラザー工業における人財育成の取り組みとして、節目の年齢でこれまでの経験を振り返り、なりたい姿を描くキャリアデザインプログラム、必要なスキルを身につけるために希望者が参加できる公開研修、若手従業員を対象に早期に海外経験を積むトレーニー派遣などを実施しています。また、自己啓発の機会として通信教育メニューを提供し、決められた講座を修了した際には全額または半額の受講費用を補助しています。
さらに、新任管理職(上級職)向けには、マネジメント研修に加え、ハラスメント、人権、コンプライアンスなど20以上の研修プログラムを用意しています。ほかにも、従業員の成長促進を目的として、上司と部下が1対1で対話を行う1on1を2017年から導入し、現在は従業員の8割が実施しています。
カテゴリー | コース数 |
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語学 | 約120コース |
ビジネススキル・知識 | 約110コース |
IT・パソコンスキル | 約30コース |
資格取得 | 約30コース |
技術スキル・知識 | 約10コース |
目的 |
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ゴール |
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プログラム |
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研修時間 |
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研修名 | ねらい | 詳細 |
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マネジメント研修 |
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ハラスメント研修 |
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コンプライアンス研修 |
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1on1部下育成研修 |
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人権研修 |
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社長・会長と語る会 |
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従業員の能力開発に関する研修・教育の実績
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
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総時間 | 112,311時間 | 99,667時間 | 104,758時間 | 104,450時間 | 166,698時間 |
従業員一人における平均金額 | 78,792円 | 80,043円 | 49,226円 | 52,220円 | 62,297円 |
従業員一人における平均日数 | 1.21日 | 1.09日 | 1.15日 | 1.13日 | 1.79日 |
従業員一人における平均時間 | 29.06時間 | 26.23時間 | 27.55時間 | 27.01時間 | 42.85時間 |
研修の種類 | 階層別研修、新任管理職研修、公開研修、トレーニーなど*2 |
- 人事部、製造企画部主催の研修のみ。介護関連セミナー分を追加して再集計
- トレーニー制度については、2020年度以降新型コロナウイルスの影響で中断、2022年度から規模を縮小して再開
グローバルな課題に対応できる人財を育成
さまざまな経験によって、広い視野と高い専門性を得る
ブラザーグループは、広い視野と高い専門性を持ち、グローバルな課題に対応できる人財を育成するため、ブラザー工業と海外のグループ会社の間で人財を派遣する研修「トレーニー制度」を2008年度から実施しています。
この研修は、人財育成計画に基づいて選出された若手の従業員が対象で、派遣期間は3カ月から1年とし、派遣元と派遣先で事前に立案した研修計画にそったOJT(On the Job Training)を行います。トレーニー制度の開始当初は自身の専門業務に関係する研修が中心でしたが、2015年度からは、開発者が営業担当者と一緒にお客様を訪問し、ニーズや使用状況をお客様から直接聞くなど、専門性とは異なる経験を通じて新たな知見を得る研修も実施しています。
また、2018年度からは、20代の技術者が1カ月間、海外の生産・修理現場で学ぶ短期派遣も開始しました。この短期派遣制度は、開発者や技術者が、普段の担当範囲とは異なる業務を学ぶことで海外の生産現場と連携を高めたり、お客様を直接訪問することで真の課題を学んだりするなど視野を広げることのできる取り組みとなっています。
2019年度には、ブラザー工業からドイツやインドネシアなどのグループ会社に37人、フィリピンや中国などのグループ会社からブラザー工業に14人の従業員を派遣しました。例えば、あるブラザー工業の技術者は中国西安市にあるマシナリー事業の生産拠点である兄弟機械(西安)有限公司に派遣されました。現地の作業者と一緒に、作業一つひとつを丁寧に確認することで、測定した数値や工程全体にかかる時間の見直しや削減など、日本で再現できない事象を、実際の現場で体現できました。
上記2つの制度は、2020年度以降新型コロナウイルスの影響で中断していましたが、2022年度から規模を縮小して再開しました。2023年度からは本格的に再開しています。
ブラザーグループは、これからも優れた価値を提供できるグローバルな人財の育成に取り組んでいきます。
トレーニー研修参加者の声
~事業全体へ貢献できるグローバル人財へ成長する~
ブラザー工業株式会社 マシナリー事業 製造部
沖田 一
私は3カ月間、西安の生産拠点において工程削減を目指し、現地スタッフと一丸となって改善活動を行いました。自ら積極的に発言を行うことはもちろん、スタッフとはデータや伝わりやすい言葉を使いながら意思疎通が円滑に取れるよう努めました。こうした現地だからこそ実現できたスタッフとの連携により、日本と中国における生産現場の違いを認識し、生産工程の見える化やタスク管理、手順書の作成による教育を実現することができました。
今後も、部門間や拠点間の連携強化を意識しながら、お客様にとって安心・安全で満足していただける製品をお届けすることができるよう、改善活動や現地スタッフの人財育成に取り組んでいきたいと思います。
DX人財の育成
ブラザーグループは、中期戦略「CS B2024」で重点テーマとして掲げた「持続可能な未来に向けた経営基盤の変革」の中で、「各事業のビジネスモデルの変革」や「強靭かつ持続可能なサプライチェーンを構築」するために、デジタル技術の活用を推進しています。また、「従業員のチャレンジ行動を促進」するため、DX*1を担う人財の育成も強化しています。
ブラザーグループのDX戦略は、1.ビジネスDX(各事業のビジネスモデル変革)、2.オペレーショナルDX(強靭かつ持続可能なサプライチェーンの構築)、3.DX基盤構築(デジタルの徹底活用と人財育成)の3つの柱で構成され、その基盤構築としてDX人財の継続的な育成を全社で推進しています。DX人財の育成は、「DXコア人財」「デジタル活用推進リーダー」「全従業員」の3つの階層に分けて行っています。
DXコア人財:デジタル技術のエキスパートとして、各事業のビジネスDXを牽引
ブラザー工業は、デジタル技術のエキスパートとして、各事業のDXを牽引する「DXコア人財」の育成を行っています。この取り組みでは、求める人財を「ビジネスプランナー」「データアナリスト」「データアーキテクト」「クラウドエンジニア」「AIエンジニア」の5つのカテゴリーに分け、それぞれのカリキュラムに基づき教育を実施しています。
2022年度からの3カ年は、200人規模の「DXコア人財」育成を計画しています。2022年度は、各事業と本社各部門から161人を選出し、研修を行いました。本研修は、2022年度に続き2023年度も継続して行っています。
デジタル活用推進リーダー:各部門における業務の効率化・デジタル化を牽引
ブラザー工業の各部門から1人ずつ、業務の効率化・デジタル化を牽引する「デジタル活用推進リーダー」を選出し、育成を行っています。2022年度は、「問題発見力」に関する研修を行い、28人の従業員が参加しました。
全従業員:DXデジタルの基礎知識を有し、業務のデジタル化・効率化に活用
デジタル活用人財の育成
ブラザー工業では、DX人財育成の基盤として「デジタル活用人財育成」を推進、より多くの従業員がデジタル技術を活用し価値創造ができる人財となるよう支援を行っています。
2022年度の「デジタル活用人財育成」では、すでに基礎知識を有する部門を除く、ブラザー工業の全従業員を対象として、e-ラーニングを実施しました。e-ラーニング内の動画では、「業務の自動化・効率化」「データ活用の検討および実施」に役立つ多くのツールやプログラムが紹介され、約3,000人の従業員が受講しました。
AIを主体的に活用できる人財育成の推進 「AI活用プロジェクト」
ブラザー工業では、2018年に社長直轄の「業務効率化プロジェクト」を立ち上げ、RPA*2やAI(人工知能)などのIT活用による定型業務の自動化・効率化を全社的に推進しています。その取り組みの1つである「AI活用プロジェクト」では、「AI Everywhere.」を合言葉に、ソフトウエア開発部門が中心となり、従業員一人ひとりが主体的にAIを活用できるよう支援しています。このプロジェクトでは、自社で独自にカリキュラムを作成した社内AI研修の実施や、専用イントラサイトによる最新のAI技術や社内でのAI活用事例の共有、現場における課題解決のためのAI活用支援など、幅広く取り組んでいます。
社内AI研修では、「各部門に1名以上AI人財を配置する」という目標のもと、所属部署や基礎知識の有無を問わず参加できる初心者向けのプログラミング講座も設けています。受講者からは「何も分からなかったAIの活用方法を知るきっかけとなるよい研修だった」「演習で実際にプログラミングを体験することで、自分が取り組む際のイメージができたのが良かった」と好評で、実際に受講終了者による各現場でのAI活用も着実に広がっています。
また、製造現場におけるAI活用事例として、インクジェットプリンターヘッドのノズル穴形状確認作業の無人化・検査精度の高度化や、工業用ミシンの出荷前検査の自動化などを実現しました。プロジェクトメンバーが、課題の明確化、AIシステム活用のための膨大なデータ収集と学習作業、システムの試験運用などを各部門の検査担当者とともに取り組むことで、検査担当者はAI知識を深めることができ、製造現場でのAI活用につながりました。
加えて、プロジェクト初期段階においては、円滑なプロジェクト運営のため「AI Lean Canvas」の記入を行っています。「AI Lean Canvas」とは、現状の課題解決に向けて行いたいことがAI向きか否かをA4用紙1枚、1時間で迅速かつ俯瞰的に判断できる有用なフレームワークで、AIの初学者でも簡単に記述をすることができます。この「AI Lean Canvas」の活用により、案件がAI向きかどうかを担当者のAI習熟度に関わらず簡単に判断でき、実証実験および実装へと迅速に移行できるようになりました。
全従業員に向けた動画教材「はじめての"AI", "機械学習"活用に向けて」を公開
ブラザー工業は、AI人財育成活動の一環として、全従業員に向けた動画教材「はじめての"AI", "機械学習"活用に向けて」を公開、1,760人の従業員が視聴しました。
この動画は、ブラザー工業のソフトウエア開発部門が、社内における「AI/機械学習」「DX」「データ活用」の見解を統一させることを目的に作成したオリジナル教材です。動画ではそのほかにも、「データ活用/機械学習に必要なスキルは何か」「具体的なプロジェクトの進め方」などが説明されており、AI/機械学習活用への基礎知識を習得できる内容となっています。
動画を視聴した従業員からは「"DX" "デジタル化" "AI/機械学習"の違いが理解できた」「プロジェクトの具体的な成功・失敗例から、データ活用/機械学習を行う具体的イメージが湧いた」という感想が寄せられました。
- デジタルトランスフォーメーションの略。高速インターネットやクラウドサービス、AI(人工知能)などのIT(情報技術)によってビジネスや生活を変革していくこと
- Robotic Process Automationの略。事務業務のロボットによる自動化。(ルーティン化できる複数のアプリケーション操作を人に代わってロボットが実施)